2012年5月4日金曜日

馬医者修行日記: その他外科


教科書的記載 Equine Internal Medicine から

Melanoma 黒色腫

 メラノーマは皮膚のメラニン細胞やメラニン芽細胞から派生することがあり、良性であったり悪性であったりする。これらの腫瘍は、アラブやペルシュロン種の高齢馬に最もよく認められる。メラノーマの発達と芦毛の毛色の関係は広く認められている。メラノーマは、もっぱら芦毛馬や、年とともに斑に白くなる馬に起こるように思われる。15歳以上の芦毛馬の80%以上はメラノーマを持っていると考えられている。

 病変部は単発だったり複数だったりし、会陰部や尾の腹側表面に最もよく発生する。腫瘍は普通硬く、結節性で、毛に覆われておらず、自潰することもある。ほとんどいつも黒い。白斑が病変の発達に先立つこともある。3つの発育パターンが報告されている。①ゆっくり成長し、転移もしない。②ゆっくり成長し、突然転移する。③成長が早く、最初から悪性。

 診断は臨床症状に基づいて行われる。病変が外見上異様でない限り、診断を確かめるために生検はたいてい必要ない。

 メラノーマが機能障害を起こさない限り治療は必要ない。8時間ごと2.5mg/kgのシメチジン(タガメット)が、ある程度の、あるいは完全なメラノーマの退行を引き起こしたことが報告されている。メラノーマの数と大きさは3ヶ月間治療した馬の50%から90%で減少した。腫瘍が退行したら、毎日の維持治療として1日1回1.6mg/kgが推奨されている。

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犬の股関節麻痺

一般的には 

 芦毛で年をとってくると、メラノーマが目立つようになる。「15歳以上の芦毛馬の80%以上はメラノーマを持っている」というのは、調査で確認されて報告されている。

「長く生存すれば、ほとんどの芦毛馬がメラノーマを発症する」と記述した文献もある。

しかし、ほとんどの発育パターンは上に書かれている「①ゆっくり成長し、転移もしない」バターンである。

 教科書に書くのはどうかとも思うが、実際問題としては「生検(生体組織学的検査)は必要ない」。

ああ、芦毛のメラノーマだ。で済むわけだ。

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人のメラノーマとの比較、混乱

 メラノーマ(黒色腫)は人では、皮膚にできる悪性腫瘍の代表のようなものだ。

人病理学から学んできた家畜病理学では、馬のメラニン形成細胞腫は病理組織学的にもまだ整理されていないように思う。

人のメラノサイトーマは私のステッドマン医学英和辞典によれば、「①褐色細胞腫。ブドウ膜実質の色素性腫瘍。②視神経円板の良性メラノーマ。」となっている。

(これについて人医者さんからご指摘をいただいた。褐色細胞腫とは違うもので、やはり良性黒色腫だそうだ。私のステッドマンは、20年前のもので間違っているのかもしれない。誰か新しいステッドマンを持っていたら、どうなっているか教えてください。別にステッドマン医学英和が正しいと言うわけでもありませんが。)


ケンネルコフVSイヌインフルエンザ

 一方、馬のメラノサイトーマ(メラニン形成細胞腫)は良性の腫瘍で、6歳以下の頚部、体幹、四肢の皮膚に見られることが多い。できるのは、芦毛とは限らない。

馬のメラノサイトーマは典型的な非侵襲型で、外科的切除により容易に完治する。

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非メラニン性メラノーマ

 ややこしい話なのだが、メラニン非形成性メラノーマというのも馬で報告されている。

メラニンも作らず、黒くもないのにメラノーマだというのは、わけがわからないが、組織病理学的には腫瘍中の円形、紡錘形、あるいは類上皮細胞によって非メラニン性メラノーマが疑われる。

そして、特殊な細胞マーカーを用いる免疫組織学的検索によりプレメラノソームが確認されれば、非メラニン性メラノーマということになる。

馬ではわずかな症例報告があるだけだが、犬の口腔内には好発するそうだ。

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高齢芦毛馬のメラノーマ

 しかし、われわれが馬で最もよく見るのは、やはり芦毛のメラノーマだ。

世界保健機関(WHO)は、家畜におけるメラニン細胞腫を melanocytoma( メラニン形成細胞腫)、melanoacanthoma (メラニン棘細胞腫)、 malignant melanoma (悪性黒色腫)に分類している。

この分類で行くと、高齢芦毛馬のメラニン形成腫瘍は悪性メラノーマと言うしかない。

しかし、高齢の芦毛馬のメラノーマは、予後についての観点から、他の動物種のメラニン形成細胞性腫瘍の分類に当てはまらない。


高齢の芦毛のメラノーマでも、1個あるいは数個までの腫瘍塊が比較的孤立して発症し、外科的切除が可能であるものと、複数個の比較的隣接した腫瘍塊が発症し、黒色腫症 melanomatosis へ悪化するため外科的切除が有効でないものとがある。

 発育パターンを見ても、③成長が早く、最初から悪性。であることはまれで、ほとんどの芦毛馬も寿命をまっとうする。

しかし、②ゆっくり成長し、突然転移するパターンはときどき見られる。

この点から、「馬のメラニン形成細胞性腫瘍に"悪性"という用語をもちいると混乱する」とValentineは書いている。

通常の高齢芦毛馬のメラノーマには細胞退化が認められないので、混乱を防止するため局所を侵襲し、早期から転移するものには「退形成性or退化性 anaplastic 悪性メラノーマ」という用語が用いられている。

 Valentineは次のような(分類)システムを提案している。

(1)Melanocytic nevi (melanocytoma) ;メラノーマ 

(2)Dermal melanoma and dermal melanomatosis ;皮膚メラノーマと皮膚メラノーマ症

(3)Anaplastic malignant melanoma ;退形成性(退化性)悪性メラノーマ

ほとんどの芦毛馬のメラノーマは(2)に分類されるべきだろう。

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 馬のメラニン形成性腫瘍は人や他の家畜とは違っていて、高齢芦毛馬のメラノーマを他の動物での印象から悪性メラノーマとするのは間違っている。

しかし・・・馬のメラノーマについて整理しておきたいという私の試みは、成功しただろうか・・・・・・・・


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参考文献

C.Fintl and P.M.Dixon   A revie of five cases of parotid melanoma in the horse.  Equine Vet. Educ. 13(1) 17-24, 2001

(全公獣協ニュース No300 12-20)

B.A.Valentine  The specturum of equine melanocytic tumours. Equine Vet. Educ. 15(1) 24-25, 2003

(全公獣協ニュース No320 13-14)

R.J.Tyler and R.I.Fox   Nasopharyngeal malignant amelanotic melanoma in a gelding age 9 years.  Equine Vet. Educ.15(1) 19-26, 2003

(全公獣協ニュース No319 21-25)

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Equine Veterinary Education は良い雑誌だ。

公獣協ニュースも素晴らしい。

感謝。

 

 

 



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